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外資系父ちゃんがおすすめする50冊

「稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである」葦原一正

 Bリーグ初代事務局長の著者が、豊富なスポーツビジネスの知識とBリーグ設立の経験を踏まえ、成功するビジネスモデルのポイントをまとめた本。サラリーマンとしては、下記の3点が参考になりました。

1.新ビジネスの機会検討、計画立案時の留意点

機会は「顕在性」でなく「潜在性」で見極め

バスケは実は世界一競技人口の多いスポーツで、国内の競技登録者はサッカーに次ぐ60万人以上。サッカーの競技者登録人口のうち男性が97%(2017年度) であるのに対して、バスケは男女比が均等であるという要素は大きなアドバンテージである。

また若年層がバスケに対して興味を抱いているのは極めて大きな特徴である。B.LEAGUEが2015年に行った調査で、観戦したいスポーツは何かと聞いたところ、10代から30代でバスケは上位を占めた。とくに10代女性は1位の野球とほぼ同ポイントで、人気の高さ、そしてポテンシャルの高さを感じる。来場者の高齢化が進む野球、サッカーとは大きく特徴が異なる。

しかも、野球やサッカーとは開催されるシーズンがずれており、また2時間できっちり試合が終わるので、放映権が売りやすいといった、 直接ビジネスにつながるような強みもあった。

まず短期的なKPIと中長期的な重要テーマを設定

第一号社員として入社した私は、会社のルール策定をはじめ、人事採用、事業戦略作りなど目まぐるしい日々を送っていた。当時のB.LEAGUEのチェアマン(理事長)は、川淵三郎氏。私の上司になる。また、協会の事務総長として、大河正明氏(現・B.LEAGUEチェアマン)がいて、三位一体で立ち上げを進めていた。基本は川淵さんが策定した「新リーグ構想」に基づき、協会、リーグ一体となって準備を進めていくが、事務局長である私へのオーダーは1つだけ。「開幕初年度は20億円を作れ」と、それだけだった。

唯一のオーダーを受けた後、第1回目の川淵さんとのミーティングが行われた。2015年7月15日。私が入社して約1カ月後のことだった。

私は会社の軸となるふたつの方向性をアジェンダとして提出した。

① 2016年の売上目標20億円、入場者数目標200万人

② 事業のキーワードは「権益統合」&「デジタルマーケティング」 

2.権益統合でビジネスインパクト最大化

約20年前は、日本のプロ野球と同程度である1500億円規模だったMLBは、年々成長を遂げ、今や1兆円規模のビジネスになっている。

半面、国内ではうまくいっているように見える野球は、事業規模で考えたら1800億円程度で頭打ち。そのほかの競技は、ほとんど収益化できていないのが現状である。

ここまで日米の差が開いた一番の要因はリーグガバナンスが図れていないからである。MLBも昔は今の日本と同じようにリーグでなく、実質的に各チームに大半の権限があった。それが、今から24年前に球団側が、チームの総年俸に上限を定めるサラリーキャップ制度を導入しようとしたところ、選手会側がこれに反発し、1994年から1995年まで232日間にわたってストライキが起きた。このことがキッカケとなりリーグを中心とした組織体制へ変更した。入場者数はさほど大きく変動していないなか、リーグに機能と権限を集約することでコストカットが図れ、ビジネス的にも売上を拡大し続けることができるのだ。たとえば各チームで作っていたwebサイトも、リーグ主導でデザインフォーマットを統一。共通化することでコストカットが図れ、ユーザーの利便性も向上する。またTV放映権の販売に関しても、従来は30の球団が各々で販売していたものをその権利をリーグに集約。このことで、必然的に販売価格が上昇し、価値が最大化した。つまり、リーグとクラブとの連携がとれていれば、その団体の市場規模やポテンシャルが高くなるのだ。またITの整備やコストといった点でも、一括管理すれば、クラブにかかる負荷も少なくなる。つまりリーグがビジネス全体を統括し、市場活性の戦略を立案していることが大きな要因だと私は見ている。

そこからさらに一歩進み、リーグとクラブ、そして協会とも権益を統合しているのがアメリカのプロサッカーリーグのMLSである。協会管轄の代表チームのスポンサーとリーグのスポンサーをまとめて販売することで、3年で3-5倍にも利益を拡大。放映権も同様、代表とリーグのセット販売で3年で5倍になったと聞いたことがある。このように、協会とリーグが一体となってビジネスをしていくことで、市場規模は大きくなっていくのだ。 

3.顧客データ統合と各種サービスのデジタル化

顧客ID統合でCRMと統一サービスを実現

野球やサッカーでは、観戦者やファンクラブの情報はすべて個別のチームに集約されている。チームによってはさらにチケット購入情報やファンクラブ入会情報など顧客行動ごとにバラバラになっているケースもある。そのため、Aチームのファンクラブに加入して、1F指定席を買って、アリーナに行く前にタオルマフラーを買って、来場してからスタジアムグルメとビールを買う、といった顧客の一連の行動がわからない。その方が他のチームのチケットを買っているのか?ということもわからない。つまりCRMの活用ができていない。

B.LEAGUEでは、その先を考えたときに、そのデータの持ち方では意味をなさないと考え、リーグ統合データベースとして一元化した。 つまり、顧客データは各クラブではなく、リーグが管理する方式である。その結果、お客様にとっては、1つのログインIDで、B.LEAGUE B1・B2全36クラブのあらゆるサービスが利用できるようになる。

 データの持ち方は4つ。

 1【チケット】チケットを買った人

 2【ファンクラブ】ファンクラブに入会している人

 3【EC】クラブのwebサイトでグッズを買った人

 4【来場者】アリーナに来場した人

 こうしたデータの活用で、来場回数などに応じてインセンティブを作り、さらなる来場を募るなど、BtoC活性化のための設計がしやすいという利点がある。データを見れば、どんな層にどのようにアプローチすればよいのかの戦略も立てやすくなる。

データ活用チームはハイブリッド型で

 著者がデータ活用の点で参考にしている組織が、NBAのコンサルティングチーム。彼らがうまくいっているのは、データを使いこなす人と現場を知っている人のハイブリッド型組織にしたこと。

当初はMBAホルダーなど分析のプロだけを集めていたそうだが、現場の経験を通して仮説を出しているわけではなかったため、分析して出てくる答えが地に足がついていないようなものになっていたそうだ。 そこでNBAは、各クラブの現場で働いていた人たちを組織に入れることにし、徹底的にボトムアップで分析を進めたが、それもうまくレポートがまとめきれず失敗。今は、現場経験のある人と優秀な分析力をもった人をハイブリッドにすることで、効果的な分析と施策の立案を実現できるようになっていったとのこと。 

権益の統合は、データも。

さきほどの統合DBをリーグだけでなく協会にもつなげていこうと思っている。日本代表なら日本代表戦、もしくはウインターカップといわれる高校バスケ、アマチュアもすべてプラットフォームを統一し、競技者データベースとも連携することも視野に入れて準備を進めている。これは世界的にみても初めての取り組みだと思うが、「共通バスケID」で競技者やバスケファンを紐付けていきたい。今まで野球・サッカー界では「スポーツをやっている人と観ている人は、ターゲットは別」ということを言っていた。 データを見ていても実際そうだった。野球界に従事していたころに、外野スタンド、ライトスタンドに行って「高校球児だった人、いますか?」と聞くと、ほとんどいなかった。B.LEAGUEでは、スポーツをやっている人はいずれプロの試合も観に来てほしいと考えている。観る人と競技する人との好循環をいかに作っていくかが、スポーツコンテンツホルダーとしての使命だと思っている。競技者と観戦者データを同じDBに入れることで、そういった分析もできるのではないかと楽しみにしている。 

新規トライアルの本質を見抜いて対応

来場のキッカケは「誘われたから」

今まで1回も来ないで、はじめて来たお客様に「なぜ来場したのか?」というデプス調査を実施したところ、全員が最終的に「誘われたから」との回答だった。皆さんからすると、一見、当たり前の答えかもしれないが、私にとっては衝撃だった。従来、そのようなスーパーライト層に対して、どの沿線に住んでいて、どんな媒体だと目に留まるかを分析してプロモーション活動をしていた。しかし、それは全く無意味だとわかった。来場する理由として、最初は**選手が好きとか、**のフードが気になっていたと答えていたが、深く突っ込んでいくと、結局は、会社、家族、友人から誘われて来場していたのだ。ライトなファン層を取り込むためのマーケティングを行うことで、新たなファンの拡大を図るのが一般的だが、私たちはライトファンの属性分析を続けていくうちに、コアファンが「誰を誘いたくなるか」「どういう情報を伝えれば誘おうと思うのか」というメカニズムを解釈することのほうが大切だと気づかされたのだ。

つまり、ライトをターゲットにする際、ライトファン分析よりコアファン分析のほうが重要ということになる。コアなファンに試合を観てもらい、その後、周囲の人たちを誘って再び会場に足を運んでもらうという流れにするために、SNSなどライトファン向けのデザインも大切だが、コアファンが気楽にチケットを同時に多く買えて、一緒に行きたい人とシェアできる、といったような「誘いやすい」UI/UX設計をB.LEAGUE全体で意識している。 

とはいえデジタルは目標達成のツール

私は、スポーツを通じてリアルの世界で人と人がつながり、ワクワクするような世界を作ることが大切だと思っている。 スポーツも〝ツール〟である。ボールひとつあるだけで、きっかけが生まれ友達と仲良くなれる。応援しているうちに隣の人と盛り上がった経験をお持ちの方も多いだろう。「する」スポーツにおいても「観る」スポーツにおいても、人とコミュニケーションする「きっかけ装置」としてスポーツは存在すると思っている。そして、デジタルも結局は〝ツール〟である。データの力で、趣味嗜好の近い人たちを何気なく結びつけてくれるのが、デジタルの力。ネットの世界で知り合い、ネットの世界だけでつながっているのが現在の社会だ。しかし、最終的に意識しているのはリアルである。「みんなで一緒に観にきてね」「いろいろな人と仲良くなってね」というメッセージを常に心に抱きながら事業を推進している。日本は今、若年層を中心にどんどんコミュニケーションが希薄化している気がする。スポーツでその社会を少しでも良くできないか。「スポーツはコミュニケーションツール」。この想いでこれからもB.LEAGUEを発展させていきたい。 

稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである

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