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『県庁おもてなし課』地域活性化したくなる小説 ③

「この物語はフィクションです。しかし、高知県庁におもてなし課は実在します。」

という書き出しで始まる本書。高知県出身の有川浩さんが、実際に県庁おもてなし課から観光特使を依頼されたことをきっかけに生まれた作品。面白い小説であると同時に「地域活性化」や「企画の実現」というビジネスのヒントにもあふれています。私的にはこの3点。

1.有り物を有機的につなぐ

 例えば「高知県まるごとレジャーランド化」というアイディア。余計な開発を入れずに、素の自然環境と元からある設備を利用して県全体をアウトドア関係のレジャーランドにしてしまう。県の中部、東部、西部、どこでもホエールウォッチングの客を受け入れられる態勢がすでにある。海亀の産卵はシーズン中はハズレが一切ないぐらいどこでも確実に見られる。自分らが見慣れてるものはつまらんもんだ、という考えがよくなくて、海が見えの産卵や鯨を見るためにわざわざ旅行をする人がいるのだから、大変な観光財産なのだと気づくことが大事。

 高知県は浜だけはいくらでも余るほどある地形。サーフィン、シーカヤック、ウィンドサーフィン、シュノーケリング、スキューバ。海に絞っただけでもこれだけ素材がある。今は全部が勝手に点在しているだけだが、情報の結合、簡便な施設、交通の整備、これらを通じて有機的に結んだだけでもかなりのレジャーランドになりそうだ。

2.視点のリセット、意識の変換

 例えば、日曜市。日曜のみ高知城下の大通りである追手筋を二車線閉鎖して開かれる露天の市場。三百年の歴史を持ち、全国的にも大規模な市だが、高知県民にとっては身近で、身近すぎて、若者はわざわざ行楽先に数えない。視点をリセットすると、おおらかで雑然とした雰囲気は南国特有の異国情緒あり。郷土色の強い立派な観光資源。旅先でこんな市があったらテンションが上がる。

 グリーンツーリズム。シンプルに考えると、都会の人に「田舎」を提供する、ということ。里帰りした田舎の楽しみ方は人ぞれぞれ。あれもやろう、これもやろうと動き回る人もいれば、のんびりダラダラしたい人もいる。どちらにしろ、自分の田舎に帰ってきたら「自分勝手」に過ごしたい。干渉を好まない人には、その時期のスケジュールを渡して最低限のフォロー。田舎での交流が欲しい人は民宿に、上げ膳据え膳で快適さを重視するなら旅館やホテル。ロッジを選ぶ人は、食事の支度から掃除まで滞在中の生活は全て自分で面倒を見る覚悟なので、現地の暮らしを満喫させてあげる。そういう違うタイプの「自分勝手」に対応できるバラエティを持っておくことは大事。散歩中に畑や港を通りがかってその日の夕飯ぶんの材料を分けてもらうような自由度を用意できたら、それは楽しい「自分勝手」になるだろう。どんなタイプの誰がいつ思いついても何かできる環境を整えておくことだ。

 観光は「来て、見て、帰る」ではもうダメな時代。観光客は、物語が欲しい。その土地に行ったことによる物語を、お土産に持って帰りたいのだ。地域の歴史や文化っていうのは、まさに物語。物語を作って発信するには、歴史や文化をちゃんと見直せばいい。その「見立て」が一番難しいが、物語を見出して発信する、それが各地出来るようになったら、日本全国がテーマパークになる。付け加えるならば、その情報発信は、行政目線ではなく、お客様目線で整備すること。行政の理屈だと、せっかくガイドブックを作っても、一部の民間施設を載せると不公平だから全部載せない、みたいなことが起きちゃう。お客様が、数ある情報の中から手に取りたくなるような形で発信すること。

3.お役所仕事の存在と突破

 お役所と民間の時間感覚の違いは大きい。「観光特使を引き受けたはいいものの、その後一カ月間、まったく音沙汰無し。立ち消えになったのかと思ってつつくと、まだ特使名刺が出来上がっていないとのこと。それが音信不通の理由になると思ってるところ自体が疑問になるが、ちょっとフットワークが悪すぎないか。」そう質問した作家に対する役所勤めの友人の回答。「その対応はあり得る。効率化しようって動きには中々ならない。今までのやり方を変えようとすると、その方が時間がかかったりするから。取り敢えず今回は、って流しちゃう。どうしても手続き守るのが最優先の組織。柔軟性がないことは残念ながら大前提。でも、それは今の時代どうよって意見が出てきてることも確かで、今はちょうど世代交代の時期だ。」

 県庁内で、難癖としか思えない、反対のための反対に対して、いちいち正面切ってコツコツ対応しようとするおもてなし課の面々に対し、寝技での切り返しを提案した作家の感想。「以前の自分なら、ただ苛立っていただろう。明らかにおかしな要求にバカ正直に答えようとするなど、まともな仕事とは思えない。民間企業でもプロジェクトに対するバカバカしい横槍は発生する。利益を生み出す企画だとはわかっていても、それを手柄にできるのが自分でないならいっそつぶれてしまえという理屈は存在する。だが、企業なら横槍を仕掛けられる側もそれを甘受することはない。右の頬を張られたら左の足を素知らぬ顔で踏み返す。グレーゾーンで反則スレスレの駆け引きを展開してようと、話が通ればそれで勝ちだ。よほど汚く勝つと将来的にしっぺ返しが待っているが、上昇志向の強い奴は下っ端の頃から巧い勝ち方を勉強している。」

 こういったことに慣れきってしまうと、それが当たり前になって諦めてしまう。こういったことを知らないと、直面した時に対応できない。どちらのパターンの人でも、小説を通じて擬似体験出来ることは価値がある。

 

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 文庫